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ボクコネ~ぼくはテクノカットよりコネチカット~ [エビ中]

3月に大阪と東京で上演が予定されていたエビ中さんの舞台『ボクコネ~ぼくはテクノカットよりコネチカット』
コロナの影響で残念ながら公演は中止となってしまいましたが、有料配信での上映、というなんともありがたい措置を取って下さいまして。
配信初日となった18日には、超局地的な停電により配信が延期されるという、小林歌穂さん曰く「エビ中持ってる」的な出来事もありましたが、無事、全5回の上映とアフタートークが配信されました。
配信期間はまだ残ってますが、さすがにもうネタバレしてもいいよね?
ということで、感想なのか考察なのか憶測なのか、なんだかよく分からないブログをつらつらと書いていきます。

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まずはざっくりと、登場人物とあらすじのようなもののおさらい。
ボロアパートの一室に住む、SFオタクで引きこもりの貧乏学生板垣(柏木さん)。
男に騙され家財道具一式を貢いだ、日野(星名さん)。
子役上がりの売れないシンガーソングライター、萬屋(真山さん)。
アパートの大家で、認知症の疑いのある柚子(中山さん)。
その柚子にしか姿の見えない宇宙少女(小林さん)。
そして、ツアーコンダクターを名乗る山田(山口さん)と佐藤(山田さん)が現れ、家ごと宇宙船に載せて宇宙旅行に飛び出したと告げるも、地球が二つに割れて人類は滅亡した…

というところまでが導入部ですね。
18日の配信はここで止まってしまって、この段階では、「かほりこがずっとワチャワチャしてるし、たまんねえなあ、おい」なんてウキウキしてたんですが、全編観終わったあとは、なんだかいろいろと考えさせられるストーリー。
いままでのシアターシュリンプとは一味違った作品で、すごく楽しかったです。
メンバーの演技も、素晴らしかったですね。

劇中で気になった部分はいくつかあるんですが、まずは冷凍睡眠のスイッチ
「誰が冷凍睡眠のスイッチを押すのか」を巡る「利他主義」と「利己主義」が、物語の大きな軸だったと思うんですが、不思議なのは、「スイッチを押すと冷凍睡眠に入る」ことは最後の最後まで明かされないまま、「柚子にスイッチを押させようとしている」ことをセリフでほのめかすだけで物語が進んでいくんですよね。
自分は初見のときに、「アレ?なんか見逃した?」って思いながら、「スイッチ押したら爆発するのかしら」とか「なんか分からんけど、柚子を犠牲にしようとしてるんだろうなあ」なんて、ぼんやり考えてて。
「誰がスイッチを押すか」を巡る利他主義と利己主義のせめぎあいがテーマなら、スイッチの正体を隠したまま話を進める必要はないですし、そこがすごく引っ掛かったんですよ。
けっきょくのところ、この「スイッチを押したらどうなるのか」という部分を明確にしないまま話が先へ先へと進んでいったときに感じる、漠然とした不安や悲しみが、「ボクコネ」という舞台の本質だったんじゃないか…。

ということで自分なりに結論付けはしましたが、どうなんでしょう。
繰り返し見ることで見えてくるものはたくさんあるけれど、それはあくまでも副産物的なものというか、舞台を見た人たち同士で共感するためのパーツなんだと思いますし。
限られた情報の中でなにを感じるかが大事なんじゃないか、ということで。

とか言いながら、ここからゴリゴリに後付け考察していくんですが笑

あ、ちなみに、そもそも冷凍睡眠に入る必要性はあったのか、という疑問もありますが、人類存続の希望を宇宙人との遭遇に賭けるのであれば、合理的なんだろうな。
広大な宇宙で未知との遭遇を果たす確率を考えると、冷凍睡眠に入って半永久的に時間をかけた方が、確率は高くなりますから。
100年分の食糧があっても、寿命はせいぜい数十年ですし。
「未知との遭遇対策委員会」も、宇宙人に見つけてもらって冷凍睡眠から覚めたあとのことを考えて、のことだったんじゃないでしょうか。

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登場人物で気になったのは、山田かなあ。
終始悪役のような扱いで、元妻の殺害や、佐藤や柚子への接し方を見てても、まさに利己主義の塊のような立ち居振る舞いでしたが、なぜかそこまで憎めないんですよね。
元妻の殺害に関しても、後々のセリフから、隠し事なのかウソなのか、妻からなにかしらの裏切りを感じて凶行に至ったんだろう、という憶測はできますけど、部下の佐藤の前ですらタバコ吸わなかったぐらい、タバコ嫌いの妻に対しては気遣いをしていたんだということを思うと、やっぱりなんか切ない。

ちなみに、妻の遺体処理に関してはひとつ推察がありまして。
じつは、山田の妻の遺体を柚子が発見していたんじゃないか、ていうね。
というのも、暗闇のなかで佐藤が遺体を発見するシーンが冒頭にあったんですが、物置に隠しておいたはずの遺体が外に出ていたのは、柚子の仕業なんじゃないかと。
佐藤が物置に隠したピストルを発見したのも柚子ですし、そう考えるといろいろ腑に落ちるんだけど、違うかなあ。
山田と佐藤が、なんとしてでも柚子にスイッチを押させようとしてたこととか。
うーん、分かりません。

エビ中さんたちの演技に関しては、ホントに素晴らしかったです。

真山さん演じるミチさんは、子役上がりの苦労人ということで、前作「ガールズビジネスサテライト」で松野さんが演じた山田あずさになんとなく通づるところもありますが、あずさと同じように、やっぱり誰かに認めてもらうことに喜びを感じるんだなあ、と。
ラストの、山田を殺したと佐藤に勘違いされる場面の、はっきり否定したいのにパニックでうまく言葉が出てこない、という演技が素晴らしかったです。
直後、自分を撃った佐藤に対してハトを逃がす仕草をしたのは、佐藤に罪悪感を与えるため、というのをアフタートークで聞いたときは、ちょっと身震いしました。

美怜ちゃん演じる日野さんは、じつはわりと最後まで正論を通してたように思うんですよね。
彼氏に貢ぐ、という行為も、どちらかと言えば利他的に映りますし。
ミチさんのように振り回されることも、板垣のように閉じこもることもなく、山田と佐藤に対しても自分の主張を通してましたから。
キノコ人間にならなければ、佐藤との過去の因縁がなければ、なんて設定を覆しちゃうのはアレですけど、あの船内においては未来を変えられる唯一の人間だったからこそ、キノコ人間という形での退場になっちゃったのかなあ、なんて。
美怜ちゃん自身、台本読んだ時点で自分は日野ちゃんだと思った、と言ってるように、美怜ちゃんの演技と日野ちゃんのキャラが、しっかり融合してたように思います。

柏木さん演じる板垣は、この物語の主人公的立場だけあって、いろいろ考えさせられる部分が多かったですね。
自分のためにセミの羽根をもぎ取ったおばあちゃんに「愛されてる」と感じたり、そのおばあちゃんが亡くなってから引きこもり生活が始まったり。
部屋の壁にかけっぱなしの喪服からも、なんだか切なさを感じます。
クライマックスの、廊下で繰り広げられる惨劇をよそに、部屋に閉じこもってひとり音楽に没頭する姿は、それこそ「利己主義」の象徴だなあ、なんて感じたりもして。
最後、柚子に10分の猶予を与えたのも、「自分がスイッチを押させた」という罪悪感を少しでも和らげるためなのかなあ、なんて思うと、ちょっと悲しいですね。

莉子ちゃん演じる柚子ちゃんが、この舞台での個人的MVP。
認知症のおばあちゃん、という難しい役だったと思いますが、ところどころの表情やセリフ回しとか、ホントに素晴らしかったと思います。
いろんな人の感想を見てても、「本当はすべて知っていたんじゃないか」なんて言う人もたくさんいて、劇中での得体の知れなさ加減というか、掴みどころがありそうでなさそうな人物像を、見事に演じきったんじゃないでしょうか。
手紙のシーンでも過去の核心には触れませんでしたし、本当のところはどうなのか、という気持ちもありますが、そこは各々の解釈で、ということなんだろうな。

そして、歌穂ちゃん演じる宇宙少女
柚子以外には見えない、ということで、舞台の上にいながらストーリーの外で芝居をしなければならない、という難しい役でしたが、まったく違和感なく演じられてたように思います。
この宇宙少女に関してもいろんな憶測が飛び交ってましたが、自分としては、生き残った人類=未来人なのかなあ、なんて思ってます。
特にそれを示唆するような描写があるわけでもないので、なんの根拠もないんですが、地球滅亡の数カ月前に人類を救うために地球へやってきて、そこで柚子と出会って…みたいな前日譚を勝手に思い描いては、その後の展開を想像したりして。
これまた正解はないんでしょうけどね。

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こんな感じでしょうか。
正直、ポスターやセットの小道具だったり、映画「My Life as a Dog」だったり、細かい伏線の話とか書ければいいんですけど、なにぶんその辺の学が無いもので…。
演者ひとりひとりの細かい言動や、利他主義と利己主義についても、もっと深く考察しないといけないんでしょうけど、そういうのは有識者の方々にお任せします笑

前回のシアターシュリンプから4年。
その間にも、グループとして個人としてドラマの出演もあったりして、確実にメンバーの演技力や表現力はアップしてますし、それぞれの役柄の外殻である「キャラ」の部分だけでなく、根っこにある「人間臭さ」を感じられるような、素敵なお芝居でした。
校長が「いままでのシアターシュリンプとは違う、新機軸の舞台」というようなことを言っていましたが、まさにエビ中の新たな一面が見られたような、そんな気がします。

今回、不測の事態による公演の中止から、配信の決定に至るまで、関係者の方々の尽力には感謝するほかないです。
でも、これですべてが報われたかというと、けっしてそうではないでしょうから、いつかまたこの素敵なお芝居を観劇できる日を心待ちにしています。




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